日本において、ローマ字は主に3種類が使われていることをご存知でしょうか。日本国内では3種類のいずれのローマ字表記も誤りはなく、普段の生活で正確性を意識することは少ないと思います。海外へ渡航するためにはパスポートや航空券の手配が必要ですが、パスポートの氏名は原則としてヘボン式ローマ字で表記することになっています。いつも使っているローマ字でパスポートを申請したり、航空券を手配すると最悪の場合、渡航ができなくなるケースもあります。今回はヘボン式ローマ字のルールや、パスポートを作成する際の注意点を解説します。
パスポート申請の詳細を知りたい方はこちらをご覧ください。
はじめに、日本国内で使用されている3種類のローマ字を紹介します。
1886年、横浜で医療活動を行っていたアメリカ人宣教師のヘボンが『和英語林集成』という和英辞典を出版しました。これらに修正が加えられ、第3版で使われたローマ字が「ヘボン式」の原型と言われています。
ヘボン式ローマ字は英語の発音に偏っているとして、物理学者の田中館愛橘が、日本語の五十音に基づいて提唱したローマ字が「日本式」です。
ヘボン式と日本式が混在する状態を統一するために、1937年に内閣訓令によって定義されたローマ字が「訓令式」です。
以下のように表記が異なっています。普段の生活で意識することはないので、ヘボン式や日本式をそれぞれ使っていることもあるかもしれません。
ヘボン式 |
訓令式 |
日本式 |
|
し |
shi |
si |
|
ぢ |
ji |
zi |
di |
ぢゃ、ぢゅ、ぢょ |
ja, ju, jo |
zya, zyu, zyo |
dya, dyu, dyo |
つ |
tsu |
tu |
|
づ |
zu |
du |
|
ふ |
fu |
hu |
|
ん |
n, m(※) |
n |
※b, m, pの前はmを使う
パスポートの申請は基本的に戸籍に記載されている氏名通りのスペルの使用が決められています。
パスポートの申請や航空券といった手配において、誤りの多い文字はピンク色で示しているので参考にしてください。
ア |
A |
イ |
I |
ウ |
U |
エ |
E |
オ |
O |
カ |
KA |
キ |
KI |
ク |
KU |
ケ |
KE |
コ |
KO |
サ |
SA |
シ |
SHI |
ス |
SU |
セ |
SE |
ソ |
SO |
タ |
TA |
チ |
CHI |
ツ |
TSU |
テ |
TE |
ト |
TO |
ナ |
NA |
ニ |
NI |
ヌ |
NU |
ネ |
NE |
ノ |
NO |
ハ |
HA |
ヒ |
HI |
フ |
FU |
ヘ |
HE |
ホ |
HO |
マ |
MA |
ミ |
MI |
ム |
MU |
メ |
ME |
モ |
MO |
ヤ |
YA |
ユ |
YU |
ヨ |
YO |
||||
ラ |
RA |
リ |
RI |
ル |
RU |
レ |
RE |
ロ |
RO |
ワ |
WA |
ヰ |
I |
ヱ |
E |
ヲ |
O |
||
ン |
N(M) |
||||||||
ガ |
GA |
ギ |
GI |
グ |
GU |
ゲ |
GE |
ゴ |
GO |
ザ |
ZA |
ジ |
JI |
ズ |
ZU |
ゼ |
ZE |
ゾ |
ZO |
ダ |
DA |
ヂ |
JI |
ヅ |
ZU |
デ |
DE |
ド |
DO |
バ |
BA |
ビ |
BI |
ブ |
BU |
ベ |
BE |
ボ |
BO |
パ |
PA |
ピ |
PI |
プ |
PU |
ペ |
PE |
ポ |
PO |
キャ |
KYA |
キュ |
KYU |
キョ |
KYO |
||||
シャ |
SHA |
シュ |
SHU |
ショ |
SHO |
||||
チャ |
CHA |
チュ |
CHU |
チョ |
CHO |
||||
ニャ |
NYA |
ニュ |
NYU |
ニョ |
NYO |
||||
ヒャ |
HYA |
ヒュ |
HYU |
ヒョ |
HYO |
||||
ミャ |
MYA |
ミュ |
MYU |
ミョ |
MYO |
||||
リャ |
RYA |
リュ |
RYU |
リョ |
RYO |
||||
ギャ |
GYA |
ギュ |
GYU |
ギョ |
GYO |
||||
ジャ |
JA |
ジュ |
JU |
ジョ |
JO |
||||
ビャ |
BYA |
ビュ |
BYU |
ビョ |
BYO |
||||
ピャ |
PYA |
ピュ |
PYU |
ピョ |
PYO |
シェ |
SHIE |
チェ |
CHIE |
ティ |
TEI |
ニィ |
NII |
ニェ |
NIE |
ファ |
FUA |
フィ |
FUI |
フェ |
FUE |
フォ |
FUO |
ジェ |
JIE |
ディ |
DEI |
デュ |
DEYU |
ウィ |
UI |
ウェ |
UE |
ウォ |
UO |
ヴァ |
BA |
ヴィ |
BI |
ヴ |
BU |
ヴェ |
BE |
ヴォ |
BO |
ヴァ |
BUA |
ヴィ |
BUI |
ヴェ |
BUE |
ヴォ |
BUO |
ヘボン式ローマ字にはいくつかのルールがあります。ここでは間違えやすい例を挙げていきます。
長音とは、「お」や「う」といった母音を通常の倍に伸ばしたものを指します。
▼末尾が「お」の場合
末尾の「お」は「O」で表します。
<例>妹尾(せのお)⇒ SENOO
▼末尾以外が「お」の場合
末尾以外の「お」は「O」で表しません。
<例>大野(おおの)⇒ ONO
大奥(おおおく)⇒ OOKU
▼末尾が「う」の場合
末尾の「う」は「U」で表しません。
<例>斉藤(さいとう)⇒ SAITO
▼末尾以外が「う」の場合
末尾以外の「う」は「U」で表しません。
<例>結城(ゆうき)⇒ YUKI
修人(しゅうと)⇒ SHUTO
▼長音と間違えやすい読み方
<例>光浦(みつうら)⇒ MITSUURA
椎名(しいな)⇒ SHIINA
撥音とは、「ん」を指します。
▼通常の「ん」の場合
「ん」は「N」で表します。
<例>千田(せんだ)⇒ SENDA
▼「ん」の直後のローマ字が「B」「M」「P」の場合
「ん」は「M」で表します。
<例>本間(ほんま)⇒ HOMMA
慎平(しんぺい)⇒ SHIMPEI
促音とは、「っ」を指します。
▼通常の「っ」の場合
「っ」はローマ字の子音を重ねて表します。
<例>服部(はっとり)⇒ HATTORI
▼「っ」の直後のローマ字が「CH」の場合
「っ」は「T」で表します。
<例>八丁堀(はっちょうぼり)⇒ HATCHOBORI
基本的にはパスポートは、ヘボン式ローマ字での申請が求められます。一度パスポートを取得すると婚姻や養子縁組等による氏名変更を除いて、表記の変更は認められません。
ただし、いくつかの例外的な措置もあるので紹介します。
国際結婚や両親のいずれかが外国籍であったり、二重国籍等の理由により、ヘボン式ローマ字以外の表記でパスポートを申請することが可能です。希望する場合は、氏名の表記が実際に使用されていることを示す書類を提出します。
伊東(ITOではなくITOH)、陽子(YOKOではなくYOUKO)といった非ヘボン式ローマ字での申請が可能です。ただし、一度申請すると変更は出来ません。
ご家族で旅行する際等、ひとりだけ姓の表記が異なる場合に、航空券手配や出入国時のトラブルの原因にもなりかねないため、申請前に問題がないか確認しましょう。
一般的には、婚姻等によって氏名が変更になった場合は記載事項変更の申請を行いますが、業務や研究発表等をはじめとした様々な理由で、旧姓や別性の利用を継続したい方は併記が可能です。
以前は、併記の申請は非常に難しかったのですが、旧姓や別性の併記に関する要件が令和3年から緩和されました。旧姓や別姓での社会活動実態を証明する書類を提出することで申請が可能となっています。
出典:日本国内及び海外でパスポートに関する申請手続きに通常必要な書類|外務省
ヘボン式ローマ字について解説しました。日本式や訓令式の使用も間違いではありませんが、海外でのスタンダードはヘボン式であり、パスポートの取得はヘボン式ローマ字の利用が無難でしょう。非ヘボン式ローマ字を利用していると、場合によっては現地でも説明や書類の提出を求められる可能性があります。
これから海外出張のために、パスポートを取得する予定の方は、不要なトラブルを避けるためにもヘボン式ローマ字のルールはよく確認しておきましょう。
次回はコロナ禍における出入国情報の収集について解説します。
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