テクノロジーの進歩により、オンラインでの商談や会議は進んでいますが、face to faceでの打ち合わせは依然として数多く存在します。企業によっては月間の出張件数が数千に及ぶケースもあるでしょう。一定の件数を超える場合、出張の全体最適を目指すことには様々なメリットがあります。そして、出張の全体最適を管理する役割がトラベルマネジャーという職種になります。
トラベルマネジャーという職種は、欧米の企業では一般的なポジション(ロール)ですが、日本においてはそれほど浸透していないのが現状です。本コラムでは、トラベルマネージャーという職種に対する理解を深めつつ、日本版トラベルマネジメントの在り方について4回に分けて考察していきます。
#1:トラベルマネジャーの役割とは ←本記事
#2:トラベルマネジャー導入のタイミングと導入効果
#3:これからのトラベルマネジャーに求められるスキル
#4:日本版トラベルマネジメントの在り方
トラベルマネジャーの役割を一言で表すのであれば、「出張する従業員が出発地から目的地まで、経済合理的、安全かつ効率的に移動し、滞在できる仕組みを構築すること」と言えます。
仕組みを構築するとは、具体的に4つの項目に分けることができます。
最初に行うべきことは、トラベルポリシーの作成です。特に交通費、宿泊、手当など旅費に関する規程を明確にする必要があります。なお、金額等の設定にあたっては、過去の利用実績に基づて決定していきます。また、手配の流れ(例:承認プロセス)や例外発生時の規定についてもこの段階で整理する必要があります。
続いて、手配の方法を定めます。具体的には、手配手段の選定(オンラインで各自予約/旅行代理店を活用など)や、手配者(管理部門主導/出張者主導など)を定めます。また、出張が一定規模ある会社の場合は、頻繁に利用する航空会社や宿泊施設グループに問い合わせ、コーポレートレートの適用について交渉します。
前段の2つの業務を通じて出張の基盤ができた後、実際に運用を行います。設定したトラベルポリシーが適切に遵守されているかを定量的に把握します。遵守率が低い場合は、ポリシーの見直しを行います。また、旅行代理店に手配を依頼している場合は、サービスレベルアグリーメントに基づき運用されているかも評価します。さらに企業によっては、出張予算の管理をモニタリングする場合もあります。
ビジネストラベルにおいては従業員の安全を守ることも重要な事項です。それゆえ、出張エリアに関する危機管理情報の適宜取得・配信や渡航制限・禁止等の決定を行うことが求められます。
以上のように、トラベルマネジャーには、計画策定から運用、見直しまで、多岐にわたる支援が求められます。また、各種のアクションを行う上では、利用実績の数値分析や従業員へのヒアリング、サプライヤーとの交渉などを行う必要があります。このようにトラベルマネージャーには、旅行に関する知見に加え、数値分析、各部門への調整能力など総合的なスキルが求められます。
ビジネストラベルの計画、運用にあたっては、出張者に加え、他部署との調整が必要になります。
サプライヤーの選定等にあたっては、間接費に係る購買を担う部署との調整が必要となります。従業員の快適性・安全性とコストのバランスを備えた選定方法を協議します。
旅費規程は役職により異なります。各役職における利用可能な移動手段や宿泊施設について協議します。
社員への情報共有を総務部門が担っている場合は、トラベルポリシーの内容について総務部に解説するとともに、社員からの問い合わせについても適宜対応する必要があります。
旅費規程の遵守等に関しては経理部門と連携して確認する必要があります。
社員の安全管理等に関し、セキュリティ部門が担っている場合は、危機管理情報の発信や緊急時の情報体制方法の構築にあたり、セキュリティ部門と調整し、決定する必要があります。
いかがでしたか。トラベルマネジャーには調整業務を含め、多岐にわたる役割があります。
そして出張が一定規模になるとその業務はますます煩雑化していくため、トラベルマネジャーの設置が効果的になります。
次回は、トラベルマネジャー導入のタイミングと導入効果について考察します。